行き止まりの手前に少し開けたお庭が見えてまいりました。そこのお部屋の窓は開いていてゴブラン織りのカーテンが風に重たく揺れています。
なんということでしょう。お部屋の中からもれ聞こえてくるのはアレッキーノの耳に懐かしいドクトンヴィル夫人のハープの調べではありませんか。
アレッキーノ「リッカルド! とうとう着いたよ。ここが僕の住んでいたお部屋だ!」
ところで、王妃の身勝手により解雇されていたドクトンヴィル夫人は、またもや王妃の身勝手により館に戻って来ていたのでした。
その日、ドクトンヴィル夫人に王妃はこのように宣もうたのだそうです。
イザベル王妃「私、貴方を解雇した覚えはありません。物事を十分理解しないで勝手にわかったと思いこまれては、こまりますよ。貴方の音楽教師としての高い能力を見出したのはこの私です。
時に、私の目にくるいはないかと数人の他の教師に来ていただいたことは、その理由からですよ。
結果的には、当たり前の事ですが、やはり私の目、いいえ、私の耳にくるいは無かったという訳です。単にそういうことですよ。」
(つづく)