山梨鐐平

シンガーソングライター

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5/4/2021

「で、レシァル公爵夫人の肖像画は進んでいますか?」
アルクのアンリ四世ホテルのバルコニイで画家のデルヴォーは私に以下のように答えた。
「微妙な状態です。公爵夫人とモンソウ公園にいるところをミルヴォワ男爵に見られたのです。彼の目に映ったもので世間に知れ渡らなかった事はついぞありませんからね。
そこで、これは先だっての事ですが、公爵が此処にいらして私に話をされたんですよ。
自信に満ちた低くて優しいあのような男の声を、私は初めて聞きました。」
その日、レシァル公爵は以下の如く話されたそうな。
「デルヴォー君、貴方の才能は確かなものです、私の認めるところであるが、これからは変な蚊も出てくる季節、夫人をモンソウ公園などに誘って下さるな、夫人とは私の館でこっそり堂々と逢えばよろしい。
噂の種は良からぬ味の実をつけるものです。
私は貴方達の事を少しの間、うっちゃっておく事にしましたから。」