その日、バルコニイでデルヴォーが一通の短い手紙を見せてくれた。
署名は無いがレシァル公爵夫人がこの画家に宛てたものだった。
以下がその全文である。
“申し上げましたとおり、私はいまだにはっきりと、けじめもつかないのでございます。
このことは余りにも私の愚かさを暴露するばかりで面映ゆうございます。
それから、私は他人の言葉に心をのまれる事はありませんが、私達の関係を｢法律が無い事を良いことに野生の獣のように生きている。｣と、ディアーヌがふれまわっている事につきましては軽んずる事は出来ず、愛欲に溺れる動物はこの世には存在しない事をディアーヌ本人の前ではっきり申し上げる所存にございます。
次に、貴方が公爵を時々刻々と尊敬されてゆく事で、少しずつ私から心が離れてゆく事につきましては、私はどうも致しません。
人の心の流れをどうこうする試みは私の一番嫌いとするところでございますから。
ともあれ、理想的な顔ではなしに、ありのままの私の顔を描いて下さった貴方の心に、心からの感謝の意を表すところでございます。”
山梨鐐平
シンガーソングライター
