遡りますに、娘はシエナ大聖堂の入口階段付近で倒れていたそうです。
そんな娘を助けて下さった方は、大聖堂に隣接する宿泊施設の職員の方で、最初はよくある行き倒れかと思ったそうですが、ただ気持ち良く眠っているのみの人と見るや、その施設の涼しい部屋で一時休ませて下さったのです。
ところで三日経っても眠りから覚めないことで慌てて医者を呼び、同時に身元を知るが為に娘のポシェットを逆さまにして、その中身を洗いざらい出したそうです。
すると中からクレマティスが描いた肖像画、あろう事かアルフレッド、貴方と私の小さく折りたたまれた二枚の肖像画が、その机の上にこぼれ落ちたのでございます。
(つづく)