その日、詳しい理由も聞かされず私は夕食をたらふく食べてルーブル宮に出向いた。
それでも足りず腹部に麻布を何重にも巻いてからナヴァール王のシャツと王の証であるレースのラフを首に付けプールポワンを着て窓辺の椅子に後ろ向きに座った。
アンリ・ド・ナヴァール王は御自分で衣服を召した事など無いから、私の服を苦労して着ると
「ありがとう、友よ。」と言うが早いか帽子を目深にかぶり、小さな東門より堂々とルーブル宮を脱出したのであった。
そのあとすぐに王妃がお部屋にお見えになり私を御覧になるや失神なされた。
そのマルグリット・ド・ヴァロア王妃とアンリ・ド・ナヴァール王がギュイエンヌ州の、とある館でめでたく再会出来たのは2年後の1578年、春のことであった。
“人間を知ることは人間にとって甚だ困難である”
(タレス)