アルクのアンリ四世ホテルの少々硬い椅子に座り、私はデルヴォーの話を聞いていた。
「先日、カトリーヌとお会いするために館に出向いたおり、あの黒塗りの鉄格子の門の前に少女は立っていたのです。換言するならば、そこで私を待っていたのです。
少女は笑みを浮かべながら、ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎが唄うような三拍子の歌を、小さな可愛らしい声で歌ったのです。
ラリランダン、その歌詩たるはこのようなものでした。」
待ってておくれ
愛しい人
待ってておくれ
美しい人
君は春の花
クレマティス
その香りは僕の心の炎を日毎強くする
ああ神よ
僕は鳥になって
飛んでゆきたい
君の住むトゥーレーヌまで
その窓辺から忍び込んで
眠っている君に
くちづけをするために