山梨鐐平

シンガーソングライター

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8/7/2021

その日、アルクのアンリ四世ホテルのバルコニイでデルヴォーは私に言った。

「時にラリランダン、ついぞ川というものを見たことのなかった者は、ゆきあった最初の川を何と見ると思もいか?」
「海とみるか、流れる池と思うか、はたまた、これは珍しいものを見たりと喜びましょうか・・・あるいは人によりけりでしょうが、”ほうほうこれですな。”と知ったふりをするか・・・。」
「我々が理解できないことは、何でも軽蔑するというのは、それは危険千万な思いあがりであると同時に、甚だ重大なことを取り逃がすにいたるに他ならないことを、貴方も承知して下すっているようで、頗る安心いたしました。」
「ともあれデルヴォー君、こうして我々が再会できたことは、いまお聞きしたところの、シエナの幻想・・・失礼、君の一瞬の理性の揺らぎ・・・いや失礼、夢の如しの、これは特に失礼、つまるところ、そこそこの現実があればこその事であるから、私はそのステッキの少女に感謝いたすところですよ。」
「実はラリランダン、その少女は、いまパリに来ているのです。」