私達がお部屋に上がりますと、デルヴォー様は寝台から少し離れたところに座っていて、眠っているクレマティス様のデッサンをなさっておいででした。
そこでリシャールは言いました。
「唐突に伺います。あの日、レシャル公爵の館の門の前で、少女が、いや!クレマティスの母上が貴方に歌ったその歌詩を、覚えていられようか?」
「ああ、今でもはっきり覚えていますよリシャール、その最後のくだりの事ですね?」
デルヴォー様はそのように言いますと、空んじていたその歌詩を、まるでクレマティス様に語りかけるように、頗る静かなお声で、
「僕は鳥になって飛んでゆきたい
君の住むトゥーレーヌまで
その窓から忍び込んで
眠っている君にくちづけをするために
リシャール、私はすでに試しましたよ。
私は毎日、眠っているクレマティスにくちづけをするのです。
だが、当然のことながら、今日もクレマティスは眠ったまま。
くちづけはクレマティスに何の変化も起こさないのです・・・。」
(つづく)