リシャールは、そのロープを常にぴんと張った状態に保っておりますので、仮にデルヴォー様が足を踏み外したとしましても、地面に真っ逆さまと言うような心配は無いのでございます。
カトリーヌ様、その時のリシャールの横顔ときましたら、まさに古代ローマの戦士の如くに凛々しくって、私はお手伝いも忘れて、ただそのお姿を惚れ惚れと眺めていた次第なのでございます。
ところが、お空に突然意地悪な黒い雲が現れますと、それがスコールの様な雨を降らせたのです。
するとそこに、マダム・ポヌーズが叫んだのでございます。
「アルフ!まるであの日とおんなじだっ!
あの日の嵐と比べりゃあ、こんなのは霧雨みたいなもんさ!
なーに今日もやれるさっ!」
その時でした。
少しだけ開けておきましたクレマティス様のお部屋の窓が、ゆっくり大きく開いたのです。
その窓から身を乗り出すようにして両手を広げ、デルヴォー様に手を差し出しているのは、お話に聞いておりました革命前のドレスを着た少女だったのでございます。
(つづく)