山梨鐐平

シンガーソングライター

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7/27/2021

扉を押してみますと、そこは作業場になっておりまして、一人青年が黙々と木箱に釘を打ち付けておりました。
ポドゥアン先生、私は早とちりをしておりました。ピロン氏は楽器の製作家では無かったのでございます。
八代目と言うそのピロン青年は、私の問いにこう返したのでございます。
「クレモナにゃあ、女性の製作家も、お弟子さんも、一人も見た事無いですよ。
けども、ほかの製作家のヴァイオリンやチェロなんかのヘッドの部分に彫刻を施したり、貴族様用の楽器の裏板に絵を描いたりする工房に、一人だけ女の人が働いているのを知ってますよ。フランス人で綺麗な人だからおいら覚えているんです。名前までは分かりませんが、三ヶ月くらい前にジョゼッペ親方に頼まれて、チェロ用の木箱を届けましたよ。
その時、おいら勇気を出して、その人に初めて挨拶してみたんだけれど、その人作業に没頭していて、おいらに振り向いてもくれなかったんだ。」

(つづく)