楽器を受け取った後、ガッリジョーニ伯爵はプロシュートとチーズの簡単なパニーニをクレマティスに持たせて下さったそうな。
その時、クレマティスが小間使いに大聖堂までの道程を詳しく聞いていた事を伯爵は思い出し、わざわざグイードに知らせて下さったのじゃが・・・
何と悲しき事に、あれから三ヶ月経った今でも、クレマティスは神隠しにでもあったかの如く消えてしまった・・・。
一方で、わしに合点が行くのは、クレマティスが、偉大なピエール・アントワヌ・ポドゥアンの娘だったと言う事実じゃ。あの表の看板はクレマティス自らの意志で、驚く勿れ、何と一夜にして描かれたものですぞ。
わしゃ久方ぶりに仰天した。然してわしには漸くの事、クレマティスがあの様な絵を描く事の出来るゆえんが知れたのです。」
ロッコ氏は申されると、大きな溜息をつきました。
そうすると、その二つのまなこから、大粒の涙が零れたのでございます。
(つづく)