私はロッコ氏にお願いし、クレマティスの作業台を見せていただきました。
ロッコ氏はクレマティスが何時帰って来ようとも良い様に、三ヶ月前の状態のままにそこを保っておられるのでございます。楽器を固定する為の器具、整頓された筆や顔料の類、クレマティスは現在では余り演奏されなくなったチェンバロやヴィオール等に、類い稀なる技術を持ってして風景を描いていたのでございます。
製作途中の物も多く、それぞれの楽器に並行して描いていた事がそこに知れるのでございました。
ポドゥアン先生、そこに画かれていたものは、私とクレマティスの散歩道、シノンの森や、ロワール川、グランモンの並木道や、キュピドン小路、懐かしい、あのロッシュ=コルボンの塔、クレマティスのお気に入りのアンボワーズの城等、それらは彼女の心の中に鮮明に焼き付いていたのである事が、私はその時悲しい程に理解出来たのでございます。
(つづく)