山梨鐐平

シンガーソングライター

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8/23/2021

私達がお部屋に上がりますと、デルヴォー様は寝台から少し離れたところに座っていて、眠っているクレマティス様のデッサンをなさっておいででした。
そこでリシャールは言いました。
「唐突に伺います。あの日、レシャル公爵の館の門の前で、少女が、いや!クレマティスの母上が貴方に歌ったその歌詩を、覚えていられようか?」
「ああ、今でもはっきり覚えていますよリシャール、その最後のくだりの事ですね?」
デルヴォー様はそのように言いますと、空んじていたその歌詩を、まるでクレマティス様に語りかけるように、頗る静かなお声で、
「僕は鳥になって飛んでゆきたい

君の住むトゥーレーヌまで

その窓から忍び込んで

眠っている君にくちづけをするために

リシャール、私はすでに試しましたよ。
私は毎日、眠っているクレマティスにくちづけをするのです。
だが、当然のことながら、今日もクレマティスは眠ったまま。
くちづけはクレマティスに何の変化も起こさないのです・・・。」

(つづく)