周りに居た男たち数人に私は取り押さえられ地面に俯せにさせられてしまいました。雨上がりのぬかるんだ道に顔を押し付けられたのでございます。
然るに、そんな私を救って下さったのもクレマティスだったのです。
男たちは「何だよ!痴話喧嘩かよっ!」などと文句を言いながら散って行きました。
クレマティスは、細かいレースが美しい、その純白のハンカチーフで顔の泥を拭ってくれたのです。
ポドゥアン先生、私の目にはクレマティスは余りにも痩せて見えましたが、決してやつれてはおりませんでした。
親方の製作したチェロを演奏家の所に届ける途中である旨を私に言うと、再び木箱を持って彼女は歩き出しました。
その後ろ姿を呆然と見つめていると、突然クレマティスは振り向いて、しばらくしたら戻るので城壁の門の所で待っていてほしい、と私に言ったのです。彼女は私の返事を待つことなく、きびすを返すように小さな広場のある方へと一人、ゆっくりと上って行ったのでございます。
(つづく)