船尾に縛り付けてある太い縄が、海中に向かってぴーんと張っていました。
その縄の先には網があります。網の中に何かがかかっているのです。
親子は力を合わせて綱を引いてゆきました。
父「リッカルド!もっとゆっくりだ、あせるな。」
重たい。
網の中の魚は、力ずくで二人を海に引きずり込もうとします。
そんな大物と、リッカルドの父親は何日間もたったひとりで格闘していたのでした。
二人を目にした若い漁師達はすぐに手助けに入ります。
夕焼けがじわじわと夜に取り込まれてゆく頃、とうとう網の中の物体が姿を現しました。
それは、父の舟の三倍はあろうかと思われる巨大なカジキマグロでした。
リッカルド少年は父を尊敬する前に、生まれて初めて見るその美しい怪物に、ただ呆然と波打ち際に立ちすくんでいたのでした。
(つづく)